セントゴーデンス・ダブルイーグルとは
| 英語名 | Saint-Gaudens Double Eagle |
|---|---|
| 発行地域 | アメリカ合衆国 |
| 時代 | 1907年〜1933年 |
| 素材 | 金 |
セントゴーデンス・ダブルイーグルは、1907年から1933年まで製造されたアメリカの20ドル金貨です。彫刻家オーガスタス・セントゴーデンスの意匠は、アメリカ金貨の中でもとくに評価が高いものの一つとされています。
この記事では、発行初年の1907年に3段階の意匠変更があったこと、そして流通後期にとくに狙われた偽ミントマークによる偽造の手口を中心に解説します。額面体系や1933年の金保有禁止といったアメリカ金貨全体の背景は、アメリカ金貨入門をご覧ください。
ルーズベルト大統領による依頼
このコインの意匠は、大統領自らの発案から始まりました。
セオドア・ルーズベルト大統領は1904年12月27日付で財務長官に宛てた書簡の中で、当時のアメリカのコイン意匠を厳しく批判し、彫刻家オーガスタス・セントゴーデンスの起用を提案しています。
1905年11月、セントゴーデンスは古代ギリシャの高浮彫コインに着想を得た自由の女神の意匠案を提出し、大統領がこれを承認しました。しかしセントゴーデンスは1907年8月3日に死去し、意匠の最終的な仕上げは助手のヘンリー・ヘリングが引き継いでいます。
美しさと量産性は両立しなかった — 1907年の3段階
**発行初年である1907年だけで、意匠は3段階の変遷をたどりました。**芸術性の高い浮彫を追求すると、量産に向かないという問題に突き当たったためです。
ウルトラハイリリーフ
最初に試作されたのが「ウルトラハイリリーフ」です。図案があまりに高い浮彫だったため、25枚に満たない数(約24枚とする資料もあります)しか製造されませんでした。図案を打ち出すには1枚あたり最大9回、172トンの圧力でプレスする必要があったとされ、通常のコインのように積み重ねることさえできないほどの高浮彫だったといいます。
ハイリリーフ
量産が現実的でなかったため、浮彫を落とした「ハイリリーフ」版が作られました。1枚あたり3〜5回のプレスで完成できるようになりましたが、それでも一括生産には不向きでした。**この年の生産枚数は資料によって1万1,250枚とする説と1万2,367枚とする説があり、断定はできません。**おおよそ1万枚強と理解しておくのが実務的です。
通常版
最終的に、首席彫刻官チャールズ・バーバーが浮彫を大幅に低くした「通常版」を製作しました。1回のプレスで量産できる仕様です。これが1907年後半以降、1933年まで続く標準仕様になりました。
**つまり同じ「1907年銘」のダブルイーグルでも、ウルトラハイリリーフ・ハイリリーフ・通常版という3段階が存在します。**美術品としての完成度と、貨幣として大量生産できることは、最後まで両立しなかったわけです。
銘文論争 — “IN GOD WE TRUST” の省略と復活
ルーズベルト大統領とセントゴーデンスは当初、“IN GOD WE TRUST” の銘を意図的に省いていました。しかしこの省略に対して世論・議会から批判が出て、1908年5月18日に議会が銘を復活させる法律を可決します。1908年7月1日以降に鋳造された金貨には、この銘が刻まれるようになりました。
このため「無銘版(No Motto)」と「銘文入り」の2種類が存在し、いずれも1907〜1908年に集中しています。
規格
品位は金90%・銅10%です。重量は資料によって33.431gや33.436gなど丸め方が異なりますが、おおよそ33.4gと理解しておけば実務上問題ありません。直径も同様に約34mmです。金純分はおよそ0.9675トロイオンスとされます。
縁には “E PLURIBUS UNUM” の文字と星が刻まれた**縁刻**(レタードエッジ)が施されています。
1933年銘 — 個人所有できるのは世界に1枚
セントゴーデンス・ダブルイーグルの中でもっとも特殊な年号が、1933年銘です。
この年号は市中に公式には払い出されず、現存が確認されている13枚のうち、個人が合法的に所有できるのは1枚(ファルーク国王旧蔵、通称ワイツマン個体)のみとされています。この個体は2002年7月に7,590,020ドル、2021年6月8日にサザビーズで18,872,250ドルで落札されました。この2つは同一個体が異なる時点で取引された記録であり、別の個体が2回売れたわけではありません。
一方、2003年に発見された別の10枚(ラングボード家旧蔵)は、訴訟の末に米国政府の財産として確定しており、ワイツマン個体とは法的地位がまったく異なります。この経緯の詳細はアメリカ金貨入門で解説していますので、あわせてご覧ください。
希少年号 — 1927-D
通常発行のセントゴーデンス・ダブルイーグルの中で、**もっとも希少とされるのが1927-D(デンバー造幣局製)です。**1933年の金回収でほぼ全てが溶解されたと見られ、現存数は11〜15枚程度と推定されています。
このほか、1920-S、1921年、1926-D、1927-S、1928年以降の年号も、とくに入手が難しいとされます。ただしこの希少性評価は、単一のグレーディング会社の鑑定枚数データに基づくものである点には留意してください。
1927-Dの取引記録としては、2020年1月9日にヘリテージ・オークションで2,160,000ドル、2025年1月16日にも同社のオークションで3,840,000ドルという記録があります。いずれも執筆時点で確認できた過去の落札事例であり、将来の価格を示すものではありません。
偽物のリスク — 偽の”D”ミントマークに注意
ここが、実際の購入時にもっとも注意すべきポイントです。
NGCへの鑑定持ち込み実績によれば、1927年銘の通常版(デンバー製ではない)は、セントゴーデンス・ダブルイーグルの中でもっとも偽造・改造が多い年号とされています。代表的な手口は、ありふれた1927年銘の金貨に偽の “D” ミントマークを貼り付け、希少な1927-Dに見せかけるものです。
判別のポイントとして、次のような特徴が挙げられています。
- ミントマーク周辺に、接着剤による変色や継ぎ目がないか
- 表面が不自然に半光沢になっていないか
- 文字が太く、輪郭が不自然でないか
NGCの偽造検出資料には、この1927-D偽造のほかにも、1907年のハイリリーフ(いわゆる「オメガ」偽造)や1924年銘についても個別の記事があります。厚みのある文字、盛り上がったレタリング、表面の気泡や突起といった特徴が、いずれの偽造にも繰り返し指摘されています。
購入時には、鑑定機関のスラブに入っているかどうかに加え、証明番号を公式サイトで照合することをおすすめします。より詳しい確認方法はアンティークコインの偽物の見分け方で解説しています。
市場での位置づけとリスク
セントゴーデンス・ダブルイーグルの市場価値は、地金としての価値と、年号・造幣所・保存状態による上乗せ(プレミアム)の組み合わせで決まります。この整理はおおむね販売業者側の情報に基づくものであり、投資助言として断定できるものではありません。
購入を検討する際は、次の点にご留意ください。
- 金相場は日々変動し、地金価値そのものが固定的ではありません
- **希少年号ほど、偽造・改造のリスクが高まります。**とくに1927-Dのように相場が跳ね上がる年号は要注意です
- **アンティークコイン市場は流動性が高くありません。**売却時にすぐ買い手が見つかるとは限りません
- 過去の落札記録は執筆時点の情報であり、将来の値上がりを保証するものではありません
まとめ
- セントゴーデンス・ダブルイーグルは、大統領の依頼から生まれた1907〜1933年発行の20ドル金貨です
- 1907年だけで、ウルトラハイリリーフ→ハイリリーフ→通常版という3段階の意匠変遷がありました
- “IN GOD WE TRUST” の銘は当初省かれ、1908年7月以降に復活しました
- 規格は金90%・銅10%、重量約33.4g、直径約34mmです
- 1933年銘は個人所有できるのは世界に1枚のみとされ、法的経緯が複雑です
- 1927-Dが最希少とされる一方、通常の1927年銘は偽の”D”ミントマークによる偽造が多い年号です
- 価格には地金価値とプレミアムがあり、投資判断には市場変動・流動性・真贋のリスクが伴います
アンティークコインの価格は市場動向・状態・希少性により変動します。金相場の影響も受けますし、売却したいときにすぐ買い手がつくとは限りません。購入にあたっては、こうした点も踏まえてご判断ください。
アメリカ金貨全体の背景はアメリカ金貨入門、ほかのコインはコイン図鑑からご覧ください。
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の商品の購入を勧誘するものではありません。アンティークコインの価格は市場動向・状態・希少性などにより変動し、将来の価値を保証するものではありません。記載の価格は執筆時点のものです。購入の判断はご自身の責任でお願いします。
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