孫文像 開国紀念幣とは
| 英語名 | Sun Yat-sen "Memento" Dollar (Founding of the Republic of China) |
|---|---|
| 発行地域 | 中国(中華民国) |
| 時代 | 1912年(発行開始)〜1932年頃(製造終了) |
| 素材 | 銀 |
孫文像 開国紀念幣は、中華民国の成立を記念して発行された銀貨です。この記事では、発行の経緯と1927年の製造再開、規格が一定しない理由、そして希少な試鋳貨(しちゅうか、正式発行前の試作貨幣)と贋作リスクについて解説します。中国近代銀貨全体の背景は中国近代銀貨入門、同時期を代表する袁世凱ドルとあわせてご覧いただくと、この時代の銀貨の流れがつかみやすくなります。
この記事で分かること
- 開国紀念幣が生まれた1912年の歴史的背景と、いったん中断してから1927年に復活した経緯
- 表裏の意匠と、その象徴的な解釈について
- 重量・直径がなぜ資料によって食い違うのか
- 試鋳貨(パターン)の希少性と、贋作が多い分野であることへの注意
1912年、建国を記念して発行
開国紀念幣は1912年、中華民国の成立と孫文(孫中山)の臨時大総統就任を記念して発行されました。「開国紀念幣」という呼び名のとおり、国家の始まりを記念する意味を持つ銀貨です。英語圏では「メメント・ダラー(Memento dollar)」と呼ばれています。
表面には孫文の左向き胸像が配され、両脇には桃の花が描かれています。裏面には弧を描くように「中華民国」の文字が置かれ、稲と豆の花輪の中に額面「壹圓」の文字が入ります。英語でも「MEMENTO」「BIRTH OF REPUBLIC OF CHINA」の銘が添えられており、対外的にも建国を伝える意図がうかがえます。
孫文像 開国紀念幣(1912年型)。左が表面で、孫文の左向き胸像と桃の花、上部に「中華民國」。右が裏面で、稲と豆の花輪に囲まれた「壹圓」と、英語銘 MEMENTO・BIRTH OF REPUBLIC OF CHINA。
図案には政治的な意味が込められているとする見方もあります。梅花は孫文が提唱した五権憲法(立法・行政・司法に加えて監察・考試の権を備えた統治構想)を象徴し、稲穂は農業の重要性を表すと解釈されることがあります。ただしこの解釈は特定の一つの情報源によるもので、確定した公式見解として断定できるものではありません。
一度中断し、1927年に復活する
開国紀念幣の製造は、発行開始からすぐに止まっています。1913年に袁世凱が正式に大総統に就任すると、孫文像の銀貨は製造が中止されました。この時期以降、中国の銀貨流通を代表したのは袁世凱の肖像を刻んだ「袁世凱ドル」です。詳しくは袁世凱ドルの記事で解説しています。
孫文像の銀貨が再び製造されるのは、1927年のことです。国民政府が南京を制圧したのを機に、袁世凱ドルに代わる暫定的な通貨として、開国紀念幣の製造が再開されました。
1927年版には、1912年の原版と見分けるための特徴があります。肖像の頭部がやや細く描かれ、星型の装飾が楕円形のロゼット(円形の花飾り模様)に変更されている点です。同じ意匠に見えても、発行時期によって細部が異なることは、この銀貨を見るうえで押さえておきたいポイントです。
規格は一つに決まっていない
開国紀念幣の重量・直径は、参照する資料によって数値が異なります。
- Wikipediaの記載では、品位(銀の含有割合)900/1000、重量26.9g、直径36.9mm
- Numistaの記載では、重量27.30g、直径39mm
- 米国貨幣学会(ANS)が所蔵する四川省鋳造・1927年銘の実物では、重量24.975g、直径37mm
この差は、単なる資料の誤りというより、当時の中国の貨幣制度そのものの反映と見るべきです。当時の中国では中央造幣局に加えて各省が独自に造幣局を持ち、それぞれの設備・規格で銀貨を鋳造していました。同じ図案の銀貨でも、鋳造した省や年によって重量・直径に幅が出るのは、この時代の中国銀貨に共通する構造です。同様の規格差は、清朝末期の光緒元宝にも見られます。一つの数値だけを「正しい規格」として覚えるのではなく、幅があるものとして理解しておくとよいでしょう。
1932年、船洋の登場で製造終了
開国紀念幣の製造は、1932年に終わりを迎えます。この年、上海の中央造幣局が「船洋(せんよう)」と呼ばれる新しい銀貨の製造を始めたことに伴い、孫文像の開国紀念幣は打ち切られました。船洋は帆船を描いた図案から付けられた通称で、右へ進む帆船と昇る太陽、マストの上を飛ぶ鳥を組み合わせた意匠でした。開国紀念幣とは別の系統の銀貨として、区別して理解しておく必要があります。
希少な試鋳貨(パターン)
開国紀念幣の周辺には、正式発行に至らなかった試鋳貨(パターン)がいくつか存在します。試鋳貨とは、正式な発行が決まる前に意匠や仕様を検討するため、造幣局が試作した貨幣のことです。詳しくは試鋳貨の用語解説もご参照ください。
代表的なものが、1927年製の「孫文霊廟(れいびょう)」パターンです。裏面には南京の中山陵(孫文を祀る霊廟)が描かれています。この試鋳貨はごく少数しか製造されなかったとされていますが、正確な製造枚数について複数の独立した資料で裏付けが取れているわけではありません。
このほかにも、旗と地球儀を組み合わせた図案の試鋳貨など、正式発行されなかった孫文シリーズの意匠が複数知られています。ただし、こうした希少パターンの具体的な落札価格については、開催時期やオークション主催者を確認できる一次資料に行き着けなかったものが多く、本記事では具体的な金額の記載を控えます。
なお、正式発行された1912年版の開国紀念幣についても、専門書では星の形状・点の位置・銘文の綴りの違いなどによる多数のバリエーションが記録されているとされます。ただし、これも一次資料そのものに直接あたれていないため、詳細な種類数は本記事では扱いません。
市場での取引例と贋作への注意
流通量の多い通常版(鳥のいない意匠)と、鳥が描かれた特殊な版とでは、取引価格に差が見られます。これまでの落札例としては、鳥ありの高グレード品が数千米ドル台、鳥なしの通常版はより手ごろな価格帯で取引された例があります。ただし、これらはいずれも過去の一時点における落札記録であり、今後の相場を保証するものではありません。アンティークコインの価格は状態や需要によって変動し、売却時にすぐ買い手が見つかるとも限らない点にご留意ください。
中国近代銀貨は、世界的に見ても贋作がとくに多い分野の一つとされています。孫文像の開国紀念幣も例外ではなく、精巧に作られた模造品が市場に流通していることがあります。購入を検討する際は、PCGSやNGCといった主要な鑑定機関(PCGS・NGCの用語解説も参照)による鑑定を経た個体を選ぶことが、リスクを下げる一つの手段になります。ただし鑑定を受けていても絶対に安全と言い切れるわけではなく、購入前には来歴(プロヴェナンス)の確認や、信頼できる取扱店・鑑定書の照合を組み合わせることが望ましいといえます。真贋の見分け方の基本についてはアンティークコインの偽物の見分け方でも解説していますので、あわせてご覧ください。
まとめ
- 開国紀念幣は1912年、中華民国の成立と孫文の臨時大総統就任を記念して発行されました
- 1913年に袁世凱が大総統に就任すると製造は中止され、1927年に暫定通貨として復活しました
- 重量・直径は資料によって幅があり、地方造幣局ごとの規格差を反映していると考えられます
- 1932年、船洋の登場に伴い開国紀念幣の製造は終了しました
- 孫文霊廟パターンなど希少な試鋳貨が知られていますが、製造枚数や落札価格の詳細は裏付けの弱い情報も多く、断定は避けるべきです
- 贋作が多い分野であるため、鑑定機関の認定や来歴の確認が重要です
中国近代銀貨全体の制度や見どころは中国近代銀貨入門、専門用語は用語集、ほかのコインはコイン図鑑からご覧ください。
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の商品の購入を勧誘するものではありません。アンティークコインの価格は市場動向・状態・希少性などにより変動し、将来の価値を保証するものではありません。記載の価格は執筆時点のものです。購入の判断はご自身の責任でお願いします。
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