キオス島テトラドラクマ|スフィンクス銀貨の歴史

英語名Chios Tetradrachm (Sphinx type silver coin)
発行地域古代ギリシャ(キオス島)
時代前6世紀後半〜前2世紀(主要発行は前4世紀)
素材

この記事で分かること

Chios Tetradrachm (Sphinx type silver coin) の表面(オブバース)
表面(オブバース) American Numismatic Society (1967.152.452) / パブリックドメイン
Chios Tetradrachm (Sphinx type silver coin) の裏面(リバース)
裏面(リバース) American Numismatic Society (1967.152.452) / パブリックドメイン

Chios Tetradrachm (Sphinx type silver coin)(American Numismatic Society (1967.152.452))

キオス島とスフィンクス銀貨の概要

キオス(現在のヒオス島、トルコ西岸沖のイオニア海域に位置する島)は、古代ギリシア世界の中でも独自の貨幣文化を育んだ都市国家でした。中でもよく知られるのが、スフィンクスを図柄に用いたテトラドラクマ(4ドラクマ相当の銀貨)です。この銀貨は紀元前6世紀頃から紀元前2世紀にかけて、長期にわたり発行されました。表面には座ったスフィンクスが描かれ、その前にはブドウの房を載せたアンフォラ(両耳付きの壺)が配置されています。裏面にはインキューズ・スクエア(中央が十字状に区切られた陰刻の正方形模様)が見られ、初期ギリシア貨幣に特徴的な意匠となっています。古代ギリシアの貨幣制度全般については、古代ギリシアコインの基礎知識でも解説していますので、あわせてご参照ください。

図柄が語るキオスの姿

表面のスフィンクスは、キオスが鋳貨を始めた古拙期から紀元前3世紀に至るまで、一貫してこの島の貨幣を象徴する図柄であり続けました。長期にわたって同じモチーフが用いられたことは、キオスという都市国家のアイデンティティがこの神話的生物と強く結び付いていたことを示しています。

一方、裏面に添えられたアンフォラとブドウの房は、キオス島がワイン交易によって富を築いていたことを表すとされています。キオス産ワインは古代地中海世界で名高く、この図柄はまさに島の経済基盤を視覚的に伝えるものといえるでしょう。なお、表面と裏面の図柄の組み合わせは、発行地の経済や政治を読み解く重要な手掛かりになります。

さらに一部の裏面には、発行を担当したマギストレート(発行責任者)の名前が刻まれています。「フェイノメ」「デモファネス」「ヘリダノス」「アテナゴラス」「フェレクレス」「ソクラテス」「ヘロドトス」といった名が確認されており、こうした個人名の刻印は、当時の発行体制や鋳造年代を推定する手掛かりとして研究者に活用されています。

政治的激動の中で鋳造された銀貨

キオスの歴史は決して平穏なものではありませんでした。紀元前546年、キオスはペルシア帝国に服属します。その後、紀元前499年に始まったイオニア反乱にもキオスは参加しました。紀元前494年のラーデの海戦では、イオニア諸国の中で最大の艦隊を有していたと伝えられており、この地域における軍事的な存在感の大きさがうかがえます。

反乱の鎮圧後もキオスは独立を求めて戦い続け、後にデロス同盟に加盟します。しかしその後もペロポネソス戦争、さらに紀元前357年から355年にかけての社会戦争でアテナイと戦うなど、地中海世界の覇権争いに翻弄され続けました。こうした激動の時代を背景に鋳造されたのが、スフィンクスを描いたテトラドラクマだったのです。

キオス標準という重量規格の広がり

キオスの銀貨を語るうえで欠かせないのが、独自の重量規格である「キオス標準」です。紀元前4世紀初頭、キオス標準のドラクマは約3.8グラムから約3.5グラムへと軽量化しました。この規格は同世紀のうちに西アジアの小地域へ広まり、ロドスやカリア・イオニアの諸都市もこれを採用したとされています。

さらに、キオスとスパルタとの同盟関係から、キオス標準の銀貨はスパルタ海軍の資金として用いられたことも伝えられています。貨幣規格の伝播が軍事同盟や貿易ネットワークと密接に結び付いていたことを示す興味深い事例です。ただし、アレクサンドロス大王以後の時代になると、キオス自体はアッティカ標準へと切り替え、周辺地域の標準もロドス標準へと移り変わっていきました。

額面のバリエーション

キオスの銀貨は額面や年代によって多様なバリエーションが確認されています。最も古い部類とされるステーター(紀元前545年から500年頃、重量約12.2グラムとされる)には、スフィンクスとアンフォラの組み合わせがすでに見られます。ディドラクマ(紀元前431年から412年頃)では、同様の図柄の周囲に花輪が加えられました。

ドラクマ単位でも複数の発行が確認されています。紀元前400年から380年頃のもの(重量3.69グラム、直径13.5ミリ)、フェイノメ銘の紀元前380年から350年頃のもの(重量3.63グラム、直径14ミリ)、デモファネス銘の紀元前375年から350年頃のもの(重量3.51グラム、直径14ミリ)などが代表例です。

テトラドラクマでは、ヘリダノス銘(紀元前375年から350年頃、重量13.70グラム)、アテナゴラス銘(紀元前380年から350年頃、直径18.5ミリ、重量14.75グラム)などが知られています。フェレクレス銘、ソクラテス銘、ヘロドトス銘のテトラドラクマについては、それぞれ大手オークションハウスでの出品記録があるとされていますが、詳細については個々の記録を確認する必要があります。

時代が下ると、アレクサンドロス3世名義の後代テトラドラクマ(紀元前290年から275年頃、重量17.1グラム、直径26ミリ)や、ポストゥムス(後代)テトラドラクマ(紀元前3世紀末から前2世紀初頭、重量17.03グラム)も発行されました。後者にはNGCによる鑑定例も存在します。

なお、ドロテオス銘やデルキュロス銘のドラクマ(直径19ミリ前後、重量約3.7グラムから4グラム)については、より後代にまで年代が下るとする資料もあるとされていますが、キオスの主要な発行期に含まれるかどうかを含め、正確な年代はなお検証が必要な情報として扱うべきでしょう。

現存状況と研究、そして評価

キオスのスフィンクス貨は、銀貨・青銅貨ともに多数が現存しており、発行期間の長さがコレクションの層の厚さに表れています。

研究面では、アグネス・ボールドウィンによる「The Electrum and Silver Coins of Chios」(1914年、American Journal of Numismatics誌掲載)が基礎的な文献として知られています。また、マヴロゴルダト番号によるキオス貨幣の分

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