コリント・ペガサス・スタテル銀貨の魅力
| 英語名 | Corinthian Pegasus Stater |
|---|---|
| 発行地域 | 古代ギリシャ |
| 時代 | 前550年頃〜前146年(アカイア戦争によるコリント破壊まで) |
| 素材 | 銀 |
この記事で分かること
- コリント・ペガサス・スタテルの基本データ(重量・直径・分割制)
- 表裏の図柄に込められた神話とアテナ女神をめぐる学術的な議論
- コリント本国から西方植民地まで広がった鋳造の実態
- 現代における出土状況とコレクション市場での位置づけ
コリントのペガサス・スタテル(American Numismatic Society 所蔵、前415〜387年)。
コリント・ペガサス・スタテルとは
コリント・ペガサス・スタテルは、古代ギリシャの都市国家コリントで発行された銀貨です。鋳造の始まりは前555年から前515年頃とされ、コリントは古代ギリシャの都市国家のなかでも最初期にコイン発行を行った都市のひとつに数えられます。
コリントはギリシャ本土とペロポネソス半島を結ぶ地峡の要衝に位置し、交易の拠点として栄えました。この地の丘アクロコリントスには女神を祀る神殿があったと伝えられています。
標準的な重量は古代コリント標準で約8.6グラム、直径は19から22ミリ程度が一般的です。貨幣制度は3ドラクマを1スタテルとするコリント式の分割制で、1ドラクマは約2.9グラムに相当します。この重量基準は、アジア起源のバビロニア軽スタテル(約130グレイン)に由来するとされています。前4世紀になると、丸く広い円形の打刻が定着していきました。
図柄に込められた神話と信仰
表面には、翼のある馬ペガサスが飛ぶ姿が描かれています。ペガサスをめぐっては、英雄ベレロフォンが馬勒(ばろく、馬を制御する道具)を用いてペガサスを手なずけたという伝説が知られています。
裏面にはコリント式の兜を被ったアテナ女神の頭部が描かれています。ただし最古期のスタテルでは、裏面は四分割の窪みだけで図像は存在せず、前6世紀末から前5世紀初頭にかけてアテナ像が追加されたと考えられています。この窪みは初期貨幣に見られる特徴で、当時の鋳造技術を示すものといえます。
コインの表記記号としては、古いアルファベットのコッパ(Ϙ)が刻まれ、これがコリントを示すミントマーク(発行地を示す記号)として機能しました。
なお、アテナは馬勒の女神カリニティスとも呼ばれたとされますが、裏面の女神をアフロディテとする説も存在し、長らく議論が続いてきました。近年の研究、いわゆるブロンバーグ論争ではアフロディテ説を退け、アテナ説を支持する見解が有力になっているとされています。
重さと大きさ、貨幣制度の実際
実際の流通品を見ると、重量8.24グラムから8.61グラム程度の個体が複数の販売記録で確認されており、標準の8.6グラムに近い値を保っています。直径についても20ミリから22.9ミリ程度の個体が確認されており、時代や鋳造地によって多少の幅があったことがうかがえます。
前345年から前307年に発行されたスタテルには、AやPといった文字による造幣官記号が付く例も見られ、当時の鋳造管理の一端を示しています。こうした記号は、現代のミントマークの考え方に通じるものです。
鋳造地の広がり—コリントから西方植民地へ
コリント式のペガサス・スタテルは、コリント本国だけでなく、南イタリアやシチリアのコリント植民地でも同型のものが鋳造されました。特に西方植民地のレウカスは、大量にコリント式スタテルを発行したことが知られています。
また、アカルナニア地方のアナクトリウムでも、前300年頃にコリント式スタテルが鋳造されたとされています。前338年から前243年にかけては、マケドニアの駐留下にあってもコリント式スタテルの鋳造が継続されたとされます。このように、コリント式の様式は本国を越えて広い地域に受け入れられ、長期間にわたり生産され続けました。
こうした広範な鋳造の背景を理解するには、古代ギリシャコイン全体の流れを押さえておくことも役立ちます。詳しくは古代ギリシャコインの入門ガイドもあわせてご覧ください。
出土とコレクション市場
コリント式スタテルは、イタリアやシチリアの遺跡で大量に出土しています。こうした複数枚がまとまって発見される事例は埋蔵貨幣と呼ばれ、当時の流通範囲や交易ルートを知る手がかりとなります。
美術館所蔵品としては、シカゴ美術館が所蔵する一例が知られており、前350年から前338年の発行、直径2.2センチメートルとされています。こうした所蔵品の来歴、いわゆるプロヴェナンス(来歴・所有履歴)は、コインの価値を評価するうえで重要な情報のひとつです。
現代の市場では、NGCなどの鑑定機関がグレード評価を行い、その結果とともに流通しています。コインの状態を示すグレーディング(等級評価)は、収集や取引の際の重要な判断材料となります。
書籍『100 Greatest Ancient Coins(古代コイン傑作100選)』では、コリント・ペガサス銀貨が23位に選出されたとされています。晩期、前350年から前285年頃に発行されたスタテルは、執筆時点で数百ドルから千ドル台で取引される例があるとされます。ただし、こうした古代コインの価格は状態や来歴、市場動向によって変動するものであり、将来の値上がりや利益を保証するものではありません。購入を検討する際は、こうした価格変動のリスクを踏まえたうえで、信頼できる鑑定情報とあわせて判断することが望まれます。
まとめ
コリント・ペガサス・スタテルは、前6世紀という古代ギリシャ貨幣史の初期段階から鋳造が始まり、ペガサスとアテナという象徴的な図柄を長期にわたり受け継いできた銀貨です。コリント本国のみならず西方植民地にも広まったその存在感は、当時の交易ネットワークの広さを物語っています。図柄をめぐる学術的な議論や出土状況を知ることで、一枚のコインの背後にある歴史の厚みをより深く味わうことができるでしょう。
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の商品の購入を勧誘するものではありません。アンティークコインの価格は市場動向・状態・希少性などにより変動し、将来の価値を保証するものではありません。記載の価格は執筆時点のものです。購入の判断はご自身の責任でお願いします。
どのコインから始めればいいか迷っていませんか
予算別に、最初の1枚として現実的な選択肢をまとめています。
予算別スターターキットを見る実際に購入を検討される方へ
当サイトの運営者は、アンティークコインを扱う店舗を運営しています。記事で解説した内容は、実際の売買を通じて得た知見にもとづくものです。
ご相談は LINEでも承っています 。
運営者情報はこちらをご覧ください。