アイギナの亀のスタテル銀貨、古代ギリシャ最初期の名品
| 英語名 | Aegina Turtle Stater |
|---|---|
| 発行地域 | 古代ギリシャ |
| 時代 | 紀元前6世紀〜前4世紀末(前570年頃〜前4世紀末) |
| 素材 | 銀 |
この記事で分かること
- アイギナ島がギリシャ世界で最初期に自国鋳貨を発行したとされる背景
- 亀のスタテル銀貨の重量やデザインの特徴
- 海亀から陸亀へと図柄が変わった歴史的経緯
- 亀貨がどこまで流通し、現在どのように取引されているか
アイギナの亀のスタテル(American Numismatic Society 所蔵、前380〜370年)。
アイギナ島と海運国家の始まり
アイギナ島は、ギリシャ世界において最初に自国の鋳貨を発行した都市とされています。島は農地が乏しかったため、早くから海運貿易に依存する経済体制を築いていました。クレタ島のキュドニアやエジプトのナウクラティスへの植民も行っており、地中海各地との交易網を持つ海洋国家であったことがうかがえます。こうした交易国家としての性格が、亀を図柄とした自国貨幣の発行につながったと考えられています。
古代ギリシャの貨幣文化全般については、古代ギリシャコインの総合ガイドでも詳しく紹介していますので、あわせてご覧ください。
鋳造開始の時期をめぐる諸説
亀のスタテル貨の鋳造開始時期については、複数の説が伝わっています。伝統的には紀元前6世紀に鋳造が始まったとされます。別の説では紀元前580年頃に大量鋳造が始まったとされ、金融機関の資料では前570年以降に銀貨鋳造が本格化したという記述も見られます。なお、デザインの原型自体はさらに古い時期に由来する可能性を指摘する見方もありますが、時期の特定には至っておらず、要確認の情報です。このように年代について複数の見解が併存している点は、古代貨幣研究の難しさを示す一例といえるでしょう。
デザインの特徴、海亀と打刻四角形
亀のスタテル貨の表面には海亀が描かれ、これが「亀貨」という通称の由来になっています。表面に対して裏面には、打刻によってできた四角形の窪みが特徴的に配置されています。この打刻四角形は、当初8分割のデザインであったものが、後に風車のような形状へと変化していったとされます。なお、5分割であったとする記述も存在しており、こちらは確定的な情報ではなく要確認とされています。
亀の甲羅には点が並んでおり、これがT字型に配置されているとの記述もあります。この打刻四角形の意匠は、現代でも1972年からある金融機関のロゴマークに採用されるなど、古代貨幣のデザインが現代に受け継がれている興味深い例です。
重量と規格、アイギナ基準
亀のスタテル貨の標準重量は、約12.2グラムから12.6グラムの範囲に収まるとされ、これは「アイギナ基準」と呼ばれる重量規格の基準となりました。実際に確認されている個体重量の例としては、12.57グラム、12.4グラム、12.36グラム、そして紀元前550年から530年頃、あるいは前525年頃のものとされる12.31グラムなどがあります。11.64グラムという軽めの個体も報告されていますが、こちらは要確認の情報です。直径はおおむね20ミリ前後で、シカゴ美術館所蔵の個体では直径2センチメートルのものが確認されています。
このアイギナ基準は、ギリシャ各地の都市国家で広く採用されるようになりました。アテナイの人々は、この基準で鋳造されたドラクマ銀貨を「厚いドラクマ」と呼んでいたと伝えられています。両都市の貨幣制度の違いが、日常の呼び名にも表れていたことがうかがえます。
素材と銀の産地
亀貨の素材は基本的に銀ですが、最古期のものには一部エレクトラム(金銀合金)が用いられたとされています。使用された銀の産地については、微量元素分析からシフノス島の鉱山であったとされています(要確認)。当時のシフノス島は銀鉱山で知られており、アイギナの貨幣鋳造を支える資源供給地であった可能性が考えられます。貨幣に用いられた銀の純度を科学的に分析することで、こうした産地の推定が可能になっている点も、古代貨幣研究の興味深い側面です。
鋳造の中断と再開、そして図柄変更
亀貨の鋳造史には、政治的な出来事による中断と再開の記録も残されています。紀元前431年、アテナイがアイギナ島民を追放したことにより、鋳造が一時中断しました。その後、世紀末にアイギナ島民が帰還し、鋳造が再開されたとされています。
図柄の大きな変化としては、海亀から陸亀への変更が挙げられます。一般的には紀元前404年のペロポネソス戦争終結後にこの変更が行われたとされますが、紀元前458年のアテナイ敗北後に変更されたとする説もあり、時期については見解が分かれています。
広範な流通と発見地
亀のスタテル貨は、ペルシャやエジプト、イタリアといった地中海各地からも出土しており、非常に広い範囲で流通していたことがわかります。世界最古の鋳貨としてはリディアの電子貨(エレクトラム貨)が知られていますが、アイギナの亀貨は商業取引における広範な流通という点で先駆的な存在であったとされています。約400年間にわたりギリシャ各地で流通し続けたという記録もあり、その息の長さは特筆すべき点です。
コレクション市場での評価
現存する亀のスタテル貨は、現在もコレクター市場で取引されています。オークションでの落札例としては、コンディションが「チョイス・ファイン」とされる個体が376ドルで落札された記録があります。また、12.31グラムの個体で「ニア・エクストリームリー・ファイン」と評価されたものが、著名なコレクションの出品歴を持つことも知られています。こうしたコンディション評価はグレーディングと呼ばれる手法によって行われ、来歴、すなわちプロヴェナンスが明確な個体は特に評価される傾向があります。
なお、アンティークコインの売買には価格変動や真贋判定などのリスクが伴います。本記事の価格情報はあくまで執筆時点での一例であり、将来の価値を保証するものではない点にご留意ください。
まとめ
アイギナの亀のスタテル貨は、ギリシャ世界最初期の自国鋳貨として、また海洋交易国家の象徴として、長い歴史を持つ貨幣です。鋳造開始の時期やデザインの変遷には諸説あるものの、その重量規格は後の時代のギリシャ各都市にまで影響を与えました。図柄が海亀から陸亀へと変わった背景や、遠く離れた地域からの出土例は、この貨幣が古代地中海世界でいかに広く流通していたかを物語っています。古代ギリシャ貨幣全体の歴史に関心をお持ちの方は、ぜひ古代ギリシャコインの総合ガイドも参考にしてみてください。
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の商品の購入を勧誘するものではありません。アンティークコインの価格は市場動向・状態・希少性などにより変動し、将来の価値を保証するものではありません。記載の価格は執筆時点のものです。購入の判断はご自身の責任でお願いします。
どのコインから始めればいいか迷っていませんか
予算別に、最初の1枚として現実的な選択肢をまとめています。
予算別スターターキットを見る実際に購入を検討される方へ
当サイトの運営者は、アンティークコインを扱う店舗を運営しています。記事で解説した内容は、実際の売買を通じて得た知見にもとづくものです。
ご相談は LINEでも承っています 。
運営者情報はこちらをご覧ください。