セリノン・テトラドラクマの図柄と歴史を解説

英語名Selinus Tetradrachm (Sicily, Selinon leaf type)
発行地域シチリア
時代前540年頃〜前409年(都市滅亡まで)
素材

この記事で分かること

Selinus Tetradrachm (Sicily, Selinon leaf type) の表面(オブバース)
表面(オブバース) American Numismatic Society (1957.172.625) / パブリックドメイン
Selinus Tetradrachm (Sicily, Selinon leaf type) の裏面(リバース)
裏面(リバース) American Numismatic Society (1957.172.625) / パブリックドメイン

Selinus Tetradrachm (Sicily, Selinon leaf type)(American Numismatic Society (1957.172.625))

セリノンという都市とコインの始まり

セリノス(セリノン)は、前7世紀後半にギリシャ本土メガラ出身のドーリア人によって建設された都市とされます。シチリア島南西部に位置し、都市名は川神セリノスに由来するとされています(要確認)。

この都市が最初にコインを発行したのは前540年頃で、当時のギリシャ植民地でよく使われていたコリント標準の重量体系に基づいていました。都市名の”セリノン”はギリシャ語で「セロリ」を意味する言葉と重なっており、コインの図柄にはこの地口(ことば遊び)を反映した表現が用いられています。詳しくは古代ギリシャコインの基礎知識をまとめた古代ギリシャコイン入門ガイドでも触れていますので、あわせてご覧ください。

芸術性を高めたアッティカ標準への移行

前5世紀半ばになると、セリノンの貨幣はコリント標準からアッティカ標準へと切り替わります。この移行にともない、図柄の彫刻も一段と洗練され、芸術性が高まったとされています。

アッティカ標準のテトラドラクマは、標準重量が約17.2グラムとされます。実際に確認されている個体の重量例としては、16.94グラム、16.91グラム、16.92グラム、17.24グラム、17.25グラム、17.26グラム、17.34グラムといった数値が記録されています。直径はおよそ24ミリメートルから28ミリメートル程度の個体が確認されています。こうした重量や発行規模に関する情報は、発行数(ミンテージ)の解説もあわせて参照すると理解が深まります。

表裏に描かれた神話と地口

セリノンのテトラドラクマの表面と裏面には、それぞれ異なる神話的モチーフが描かれています。

表面には、女神アルテミスが四頭立ての戦車を操る姿と、弓を引く神アポロンが組み合わされた構図が採用されています。一方の裏面には、全裸の河神セリノスが祭壇の前で献酒(酒を捧げる儀式)を行う様子が描かれ、雄鶏と牛の像を伴っています。河神セリノスは額に小さな角を持つ裸の若者として表現されているとされます(要確認)。

裏面の銘文にはΣΕΛΙΝΟΝΤΙΟΝ、あるいは文字を逆向きに配したΣΕΛΙΝΟ-Ν-ΤΙ-ΟΣという表記が用いられています。そして図柄の定型として、セリノン(セロリ)の葉が牛像の上に配置されるのが特徴です。これはまさに都市名にちなんだ地口の視覚化といえます。なお、この裏面デザインは同時代のヒメラという都市が発行した貨幣と類似しているとされています(要確認)。

戦乱の時代とセリノンの滅亡

セリノンの歴史は、隣接都市セゲスタとの対立を軸に大きく揺れ動きます。前415年、セリノスはセゲスタを撃破しました。この一件が、アテナイによるシチリア遠征のきっかけになったとされています。しかし前413年、アテナイ軍はシチリアで敗北を喫します。

その後も対立は続き、前411年にセリノスは再びセゲスタを破りました。追い詰められたセゲスタは、前410年にカルタゴへ介入を要請します。これを受けてカルタゴは、将軍ハンニバル・マゴ(後世の名将ハンニバルとは別人で、マゴ朝の人物)を派遣し、シチリアへの本格的な再介入に踏み切りました。この再介入は、約70年ぶりのことだったとされています(要確認)。

前409年の春、カルタゴ軍はわずか10日間の攻囲戦でセリノスを陥落させました。当時の記録では、カルタゴ軍が40,000、セリノス側が25,000という兵力差があったとされ(要確認)、戦死者16,000人、捕虜6,000人という数字も伝えられています(要確認)。セリノス陥落の後、同年のうちにヒメラも攻略され、破壊されました。この一連のカルタゴの攻勢は、前480年に起きた旧ヒメラの戦いへの報復という側面もあったと解釈されています(要確認)。

貨幣鋳造の終焉と最終期の発行

セリノンは、この前409年の陥落をもって貨幣鋳造を終了しました。最後の発行期間となった前415年から前409年にかけては、テトラドラドラクマとディドラクマ(2ドラクマ相当の銀貨)の2種類が発行されています。

このディドラクマの中には、裏面に河神ヒュプサスと鶴を描いた型も存在します。また、勝利を記念したとみられるニケ(勝利の女神)と月桂冠を配したテトラドラクマも、前417年から前413年頃に発行されたとされています(要確認)。なお、セリノスはシチリアにおいて初期にアエス・グラーヴェ(重量青銅貨)を使用した2都市のうちの一つだったともされています(要確認)。また、セリノスとアルゴスを結ぶ信仰上の根拠として、ヘラクレス神話が挙げられることもあります(要確認)。

現代の収集市場における評価

セリノンのテトラドラクマは、現代のカタログでも詳細に分類されています。専門カタログとしては、SNG ANS、シュヴァバッハー(Schwabacher)、リッツォ(Rizzo)といった番号体系が用いられ、個体の識別に役立てられています。レアリティ(希少性)の指定としては、HGC 2, 1221などでR1という格付けが確認できます。数量的な希少度の目安としては、ヌミスタ(Numista)のレアリティ指数が最高値100と記録されているとされます(要確認)。

コインの状態評価については、第三者鑑定機関によるグレーディングが現代の市場で重視されており、来歴(コインの所有履歴)を示すプロヴェナンス情報も評価に影響します。古代コインは同じ型式でも保存状態や来歴によって評価が大きく異なるため、購入を検討する際はこうした専門的な情報を確認することが重要です。

まとめ

セリノンのテトラドラクマは、都市名にちなんだセロリの地口図柄と、アルテミス・アポロン、そして河神セリノスという神話的モチーフを兼ね備えた、シチリア古代コインの代表例です。前5世紀のアテナイ遠征やカルタゴ侵攻という激動の歴史の中で発行され、前409年の都市陥落とともにその鋳造の歴史を終えました。

古代コインは歴史的価値を持つ一方で、市場価格は状態や来歴、需給によって変動します。執筆時点の情報として、購入や収集を検討される場合は、価格変動のリスクがあることを踏まえたうえで、信頼できる専門家やカタログ情報を参考にすることをおすすめします。

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