フランス近代金貨入門
フランスの近代金貨、なかでも20フラン金貨には、他国のコインにあまり見られない特徴があります。発行が始まった1803年から1914年まで、111年間にわたって重量・直径・品位を一度も変えなかったことです。
この記事では、その一貫性がどのように成り立っていたのか、そしてその規格がフランス国外にまで広がった経緯を中心に解説します。あわせて、図案の変遷、20世紀半ばに行われた「年銘と製造年が一致しない」再鋳造、そして造幣所記号の読み方も取り上げます。
購入や鑑定の実務にも関わる内容なので、これからフランス金貨を集めたい方はもちろん、すでに1枚お持ちの方にも参考にしていただける構成にしています。
ジェルミナル法 — すべての出発点
1803年3月28日(共和暦11年ジェルミナル7日)、フランスで通称「ジェルミナル法」と呼ばれる法律が制定されました。
ここで定められたのが、フランス近代金貨の基本規格です。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 品位 | 900/1000(90%が金) |
| 直径 | 21mm |
| 総重量 | 約6.45g |
| 純金量 | 約5.81g |
なお総重量は資料により6.45g、6.45129g、6.45161gと微妙に異なる数値で紹介されることがありますが、これは丸め方の違いによるもので、実質的には同じ規格を指しています。本記事では「約6.45g」で統一して表記します。
品位(貴金属の純度を示す指標)について詳しくは品位をご覧ください。
111年間、規格を変えなかった
ここがフランス近代金貨を理解するうえで最も重要な点です。
1803年から1914年まで、20フラン金貨は上記の規格を一度も変更せずに発行され続けました。統治体制は共和政・帝政・王政のあいだで何度も入れ替わりましたが、コインの重量・直径・品位という物理的な規格だけは動きませんでした。
これは、法律で定められた規格が政治体制の変化とは独立して維持された、という制度上の事情によるものです。図案は元首や政体が変わるたびに刷新されましたが、規格の連続性が保たれたことで、20フラン金貨は長期にわたり信頼できる貨幣として通用しました。
この「規格の一貫性」という考え方は、金本位制のもとで通貨単位が金の一定量として法的に定義されていたからこそ成立します。金本位制については後述します。
ラテン通貨同盟 — 規格が国境を越えた
フランスの規格は、自国内にとどまりませんでした。
1865年12月23日の条約により、フランス・ベルギー・イタリア・スイスの4か国がラテン通貨同盟を結成しました。1867年にはギリシャも加盟しています。
この同盟に加盟した国々は、金と銀の交換比率を15.5対1とし、20フラン金貨についても6.45161g・品位900という、フランスの規格をそのまま採用しました。つまり、フランスで鋳造されたコインとベルギーやスイスで鋳造されたコインが、事実上同じ価値を持つ貨幣として国境を越えて流通できる仕組みができあがったわけです。
ラテン通貨同盟は第一次世界大戦の勃発によって事実上機能を失い、1920年代半ばに正式に解消されました。解消年について資料ごとに1〜2年の幅がありますが、本記事では「1920年代半ば」という表現にとどめます。
なお、フランスの規格を採用した国々の20フラン相当金貨は、外見は似ていても発行主体が異なるコインです。購入の際は発行国と造幣所記号を必ず確認してください。
図案の変遷 — 政体が変わるたびに描き直された
20フラン金貨の図案は、フランスの政治体制の変化をそのまま映しています。
| 時期 | 元首・政体 | 主な意匠 |
|---|---|---|
| 1799〜1804年 | 統領ボナパルト(第一執政) | ボナパルトの横顔 |
| 1804〜1814/15年 | 皇帝ナポレオン1世 | ナポレオン1世の肖像 |
| 1814〜1824年 | ルイ18世 | ルイ18世の肖像 |
| 1824〜1830年 | シャルル10世 | シャルル10世の肖像 |
| 1830〜1848年 | ルイ・フィリップ1世 | ルイ・フィリップ1世の肖像 |
| 1848〜1852年 | 第二共和政 | ジェニー(守護神像)、のちケレス像 |
| 1852〜1870年 | ナポレオン3世 | 無冠、のち月桂冠のナポレオン3世 |
| 1871〜1898年 | 第三共和政 | ジェニー(精霊像) |
| 1899〜1914年 | 第三共和政 | マリアンヌと雄鶏 |
このなかで「ジェニー」と呼ばれる翼を持つ精霊の意匠は、1848〜1849年の第二共和政期と、1871〜1898年の第三共和政期という2つの独立した発行期間にまたがっています。さらにさかのぼると、1792年の革命期にも同じモチーフを持つ貨幣が存在しますが、これは20フランとは別の額面です。
この意匠は英語圏のディーラーから「エンジェル(天使)」という通称で呼ばれ、日本語でも「エンジェル金貨」として知られています。ただしフランス語での正式名称は「精霊」を意味する「ジェニー」であり、「天使」ではありません。この名称のねじれと、意匠にまつわる有名な逸話については、個別記事のエンジェル金貨(ジェニー)とはで詳しく解説しています。
なお、20フラン金貨全般を指して「ナポレオン金貨」と呼ぶ通称も、フランスコインを扱う販売サイトなどで広く使われています。これは学術的な定義に基づく名称ではなく、あくまで俗称としての用法である点にご留意ください。
第三共和政の末期 — ジェニーからマリアンヌへ
第三共和政は当初、彫刻家オーギュスタン・デュプレによる図案を復刻した「ジェニー」型を1871年から1898年まで発行しました。
1899年からは、彫刻家ジュール=クレマン・シャプランによる新しい図案「マリアンヌと雄鶏」に切り替わり、1914年まで発行が続きました。
この「マリアンヌと雄鶏」型の総鋳造枚数は117,448,888枚とされています。ただしこの数値は単一の資料でしか確認できていないため、参考値として捉えてください。
ピネー再鋳造 — 年銘は製造年と一致しない
フランス近代金貨を理解するうえで、実務的にきわめて重要な事例があります。
**1951年から1960年にかけて、フランス政府は「マリアンヌと雄鶏」型20フラン金貨を、1907年から1914年の年銘が刻まれた原型の刻印のまま、約3,748万枚も再鋳造しました。**通称「ピネー再鋳造」と呼ばれています。
これはつまり、1950年代に製造されたコインでありながら、表面には1910年のような戦前の年号が刻まれている、ということです。コインに刻まれた年号が、必ずしもそのコインが実際に作られた年を意味しないという好例になっています。
こうした「本来の発行時期より後に、オリジナルの極印を用いて打刻されたコイン」は、専門用語でリストライクと呼ばれます。リストライクは偽造品ではなく、正規の造幣局が公式に発行したものですが、一般にオリジナルよりも評価額は低くなる傾向があります。ピネー再鋳造もこの性格を持つコインです。
年銘だけを根拠に「これは1910年に作られた希少な1枚だ」と判断するのは早計です。同じ年銘のコインでも、オリジナルなのかピネー再鋳造なのかによって、位置づけが変わってきます。
造幣所記号と差別記号の読み方
フランスの造幣所記号の制度は、1540年、フランソワ1世の時代にまでさかのぼります。都市ごとにアルファベット1文字が割り当てられており、たとえばパリはA、リヨンはD、リールはWという具合です。
19世紀末に近づくにつれて地方造幣所は徐々に整理・縮小され、ジェニー型20フラン金貨は全量がパリ造幣局(記号A)で鋳造されました。造幣所記号一般の意味と、価値への影響については造幣所記号で解説しています。
フランスコインにはもうひとつ、造幣所記号とは別に「差別記号」と呼ばれる小さな図案が刻まれています。フランス語では「ディフェラン・モネテール」と呼ばれるもので、蜜蜂や松明といったモチーフが用いられ、鋳造時期をより細かく特定する手がかりになります。この差別記号についてはフランスの通貨系サイトやカタログでの説明が中心で、学術的な一次資料までは確認できていませんが、実務上はコインの鑑定・年代特定において参照される情報です。
差別記号は非常に小さく、ルーペなどを使わないと見落としがちです。年号と造幣所記号だけでコインの由来をすべて説明できるわけではない、という点は覚えておく価値があります。
金本位制の終わり — 一度では終わらなかった
「金本位制がいつ終わったか」は、単純に一つの年で語れません。
フランスの場合、次のように複数の段階を経ています。
- 1914年 — 第一次世界大戦の開戦とともに、金貨は事実上流通から離脱しました
- 1928年6月25日 — レーモン・ポワンカレのもとで「フラン・ポワンカレ」が導入され、金1gあたりの価値が旧フランの約20%として法的に切り下げられました
- 1936年 — フランスは金本位制から再び離脱しました
「〇年に金本位制が終わった」という単純化された説明を見かけたら、どの段階を指しているのかを確認する必要があります。金本位制そのものの制度的な意味については金本位制をご覧ください。
フランからユーロへ
時代は下って、フランス・フランの硬貨は2002年2月17日にユーロとの並行流通を終了しました。フランス銀行での交換期限は2005年2月17日で終了しています。
これにより、20フラン金貨は法的な通貨としての役割を完全に終え、収集・地金の対象としての性格だけが残ることになりました。
市場での位置づけ
20フラン金貨は、地金型(純金の重量・純度で価値が決まるコイン)に近い性格が強いという特徴があります。
発行数が多い年号については、素材価値からの上乗せ幅が比較的小さく、いわゆる収集プレミアムはあまり大きく乗りません。プレミアムが顕著に乗るのは、ミンテージ(発行枚数)が少ない希少年号や、鑑定機関による高いグレードが付いた個体に限られます。
地金型コインと収集型コインでは、価格を左右する要因がまったく異なります。20フラン金貨を購入する際は、その1枚が地金価値中心の商品なのか、収集価値が上乗せされた商品なのかを見極めることが重要です。
アンティークコインの価格は市場動向・状態・希少性、そして金相場によって変動します。地金型に近い性格を持つコインは、とくに金価格の変動を直接受けやすい点にご注意ください。将来の値上がりを約束するものではなく、売却時にすぐ買い手がつくとも限りません。価格に関する情報はすべて執筆時点のものであり、実際の取引にあたっては最新の相場をご確認ください。
購入時に確認したい点
これまで見てきたとおり、20フラン金貨は年号・造幣所記号・差別記号によって発行時期が細かく分かれ、なかにはピネー再鋳造のように年銘と製造年が一致しない個体も存在します。
購入時には、次の点を確認すると安心です。
- 年号と造幣所記号の組み合わせが実在するか — 存在しない組み合わせは、真贋を疑う手がかりになります
- 重量と直径が規格(約6.45g・21mm)から大きく外れていないか
- 鑑定機関のグレードが付いているか — 高額な希少年号ほど、第三者評価の有無が重要になります
真贋の見分け方全般については偽物の見分け方でも解説していますので、あわせてご参照ください。
まとめ
- 20フラン金貨は1803年のジェルミナル法により、品位900・直径21mm・総重量約6.45gと規定されました
- この規格は1914年まで111年間、一度も変更されませんでした
- ラテン通貨同盟により、ベルギー・イタリア・スイス・ギリシャも同じ規格を採用しました
- 図案は統領政府から第三共和政まで8つの政体をまたいで変化し、「ジェニー」型は1848〜1849年と1871〜1898年の2期にまたがります
- 1899年からは「マリアンヌと雄鶏」型に切り替わりました
- 1951〜1960年のピネー再鋳造では、旧年銘のまま約3,748万枚が再鋳造されました。年銘=製造年とは限りません
- 造幣所記号はパリ=A。差別記号という小さな図案も鋳造時期の手がかりになります
- 金本位制の終わりは1914年→1928年→1936年という複数の段階を経ています
- フランは2002年にユーロと並行流通を終了し、2005年に交換期限を迎えました
個別のコインについてはエンジェル金貨(ジェニー)とは、専門用語は用語集、ほかのコインはコイン図鑑からご覧ください。
この分野の個別コイン解説
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の商品の購入を勧誘するものではありません。アンティークコインの価格は市場動向・状態・希少性などにより変動し、将来の価値を保証するものではありません。記載の価格は執筆時点のものです。購入の判断はご自身の責任でお願いします。
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