英国クラウン銀貨とは

英語名British Crown (Five Shillings)
発行地域イギリス
時代1551年(銀貨初鋳)〜現在(記念貨)
素材

英国クラウンは、額面5シリング(1ポンドの4分の1)にあたる銀貨です。英国史上でも最大級の大きさを持つ流通貨幣のひとつとされ、通常の買い物用というより、王室の節目を祝う記念貨としての性格を強めていったコインです。この記事では、クラウンという額面がどのように生まれ、どのように姿を変えてきたかを、規格の変遷と代表的な記念貨を軸にたどります。

この記事で分かること

クラウンとは — 額面5シリングの由来

「クラウン」という貨幣名は、1526年8月にヘンリー8世治下で導入された金貨クラウンに由来します。導入当初の額面は4シリング6ペンスでしたが、同年10月には5シリングへ改定されました。この時点ではクラウンは金貨のみの額面で、銀貨としては存在していませんでした。

銀貨としてのクラウンが初めて発行されたのは1551年、エドワード6世の治世です。以降、クラウンは金貨・銀貨の両方で使われる額面名として定着し、後の時代には銀貨クラウンが主流になっていきます。

1551年 エドワード6世のクラウン銀貨。剣を持ち馬に騎乗する王の姿と、EDWARD VI の銘、年号 1551
銀貨クラウンの最初の姿。1551年 エドワード6世のクラウンで、剣を持ち馬に騎乗する王(man on horseback)が描かれています。 The Metropolitan Museum of Art (22.122.11) / パブリックドメイン

機械打ちの始まりと「DECUS ET TUTAMEN」

クラウンの製法史における大きな転換点が1662年です。チャールズ2世の治世に、クラウンは機械打ち(ミルド、圧印機による製造)で発行された最初の銀貨額面となりました。製作を担ったのは彫刻家ジョン・ロッティエです。

このとき同時に採用されたのが、コインの縁(エッジ)に刻まれたラテン語の銘文「DECUS ET TUTAMEN(飾りにして守り)」です。縁の意匠や文字については縁銘とはで詳しく解説していますが、この銘文は著述家ジョン・イーヴリンが1662年にチャールズ2世へ提案したとされています。目的は、コインの端を薄く削り取って地金を盗む「クリッピング」という不正の防止でした。

規格の変遷 — .925から.500、そして白銅へ

クラウンの重さや銀の含有率は、時代を経て何度か変更されています。年表として整理すると、次のような流れになります。

つまり、同じ「クラウン」という額面でも、鋳造年によって銀の含有率がまったく異なります。1920年より前の個体は.925、1920〜1946年の個体は.500、1947年以降は銀を含まない白銅という違いがあるため、購入時には発行年を確認することが実務的な目安になります。

ヴィクトリア朝から現在まで — 記念貨としての発展

ヴィクトリア女王在位中(1837〜1901年)のクラウンには、時期によって3種の肖像が用いられました。若きヤングヘッド(彫刻家ウィリアム・ワイオン作)、即位50周年のジュビリーヘッド(ジョセフ・エドガー・ボーム作)、晩年のオールドヘッド(トーマス・ブロック作)です。この時代の代表的な意匠は1847年ゴシック・クラウンウナとライオンで個別に紹介していますので、あわせてご覧ください。ヴィクトリア朝コイン全般はヴィクトリア朝コイン入門にまとめています。

20世紀に入ると、クラウンは王室の節目を祝う記念貨としての性格を一段と強めます。

1935年、ジョージ5世在位25周年(銀婚記念)のクラウンは、パーシー・メトカーフが手がけた聖ジョージの意匠から「ロッキングホース・クラウン」と呼ばれています。アール・デコ調で、聖ジョージが馬上に直立する構図です。通常銀貨として714,769枚、さらに特別収集用として2,500枚が製造されたとされます。

1935年 ジョージ5世 銀婚記念クラウンの表裏。左がジョージ5世の左向き肖像、右がアール・デコ調の聖ジョージ竜退治と CROWN 1935 の銘
1935年 ジョージ5世 銀婚記念クラウン(ロッキングホース)。右面の、馬上に直立する聖ジョージが木馬(ロッキングホース)を思わせることが通称の由来です。図案はパーシー・メトカーフ、右下に「PM」の署名が見えます。 Windrain, via Wikimedia Commons / CC0 1.0(パブリックドメイン提供)

なお、1927〜1936年発行の「リース・クラウン(リース図案)」シリーズもあります。イングランド銀行がVIP顧客へのクリスマス贈答用として少数を製造させたもので、年ごとのミンテージ(発行枚数。詳しくはミンテージとはをご覧ください)が非常に少ない、いわゆるキー・デート(希少年号)を含みます。なかでも1934年銘は932枚のみとされ、シリーズ最少とされています。1935年だけは銀婚記念クラウンに置き換えられました。

1951年、ジョージ6世治下の「フェスティバル・オブ・ブリテン」記念クラウンは、戦後復興を象徴するイベントを記念して発行されました。裏面の聖ジョージと竜の図案は、ソブリン金貨で知られる彫刻家ベネデット・ピストルッチの意匠を再び用いたものです。ミンテージは約198万枚で、ジョージ6世治世のクラウンのなかで唯一、白銅(キュプロニッケル)製という点も特徴です。

1953年、エリザベス2世の戴冠式記念クラウンは、馬「ウィンストン」に騎乗する女王の意匠が用いられました。具体的な発行枚数については、確認できる一次資料の間で数字が食い違うため、本記事では断定を避けます。

1965年、ウィンストン・チャーチルの死去を記念するクラウンは、ミンテージ約1,964万枚と、英国クラウン史上最多とされています。肖像を制作したのはオスカー・ネモンで、君主以外の人物が英国貨幣に描かれたのは、1658年のオリバー・クロムウェル以来とされています。

10進法化で25ペンスへ、そして5ポンドへ

1971年、英国は通貨を10進法(デシマライゼーション)に切り替えました。これにより、それまで5シリングだったクラウンは額面25ペンスに再指定されます。1972〜1981年には、王室行事を記念する25ペンス・クラウンが4種発行されました。1972年の銀婚、1977年の即位25周年、1980年の皇太后80歳、1981年のチャールズ皇太子ご成婚です。

ところが25ペンスという額面は、製造コストが額面に対して高すぎるという問題を抱えていました。このため25ペンス・クラウンは1981年を最後に打ち切られます。転機となったのは1990年で、エリザベス皇太后90歳を記念するクラウンで額面が5ポンドへ引き上げられました。以降のクラウン、つまり現在発行されている記念貨は、この5ポンド額面を継続しています。

クラウンはサイズが大きいことから、もともと日常の買い物には使いにくいコインでした。この流れのなかで、通常流通用というより国家的な節目を祝う記念貨としての性格を強めていったといえます。現在も法定通貨としての地位はありますが、日常での流通は事実上失われており、現行の5ポンド・クラウンは非流通の記念貨として発行されています。

市場での評価と注意点

一般的な発行年・状態のクラウンは、額面や素材、状態に応じて古銭商などで取引されています。アンティークコインの価格は市場動向・状態・希少性によって変動するもので、将来の値上がりを保証するものではありません。売却したいときにすぐ買い手がつくとは限らない点にも注意が必要です。

一方で、通常流通品とはまったく別格に扱うべきコインもあります。チャールズ2世時代の試作貨「ペティション・クラウン」です。1663年に彫刻家トーマス・サイモンが制作したもので、王への「請願」を意図して作られたことからこの名で呼ばれています。こうした量産前の試作貨はパターン・コイン(試鋳貨)と呼ばれ、詳しくはパターン・コインとはで解説しています。ペティション・クラウンは現存が20枚に満たないとされる希少品です。

執筆時点で確認できる情報では、2024年1月にヘリテージ・オークションズのNYINCオークションでNGC MS62の個体が96万米ドルで落札され、英国銀貨の当時の世界記録を更新しました。さらに同年5月には、NGC MS63+の別個体が約104万米ドル(CHF 949,375)で落札され、記録を更新しています。ただしこれらは現存20枚未満という極めて希少な試作貨の例であり、一般に流通していた通常のクラウンの価格帯とは切り離して考える必要があります。「クラウン」という額面名だけで高額を連想するのは誤りです。

コインの品位や金貨との違いについては、金貨の代表格であるソブリン金貨とはもあわせてご参照いただくと、英国貨幣制度への理解が深まります。

まとめ

英国コイン全般の背景はヴィクトリア朝コイン入門、専門用語は用語集からご覧ください。

関連する総合ガイドを読む →

本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の商品の購入を勧誘するものではありません。アンティークコインの価格は市場動向・状態・希少性などにより変動し、将来の価値を保証するものではありません。記載の価格は執筆時点のものです。購入の判断はご自身の責任でお願いします。

どのコインから始めればいいか迷っていませんか

予算別に、最初の1枚として現実的な選択肢をまとめています。

予算別スターターキットを見る

実際に購入を検討される方へ

当サイトの運営者は、アンティークコインを扱う店舗を運営しています。記事で解説した内容は、実際の売買を通じて得た知見にもとづくものです。

ご相談は LINEでも承っています

運営者情報はこちらをご覧ください。